大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)4435号 判決

原告

木下たみ

被告

野口猛

主文

一  被告は原告に対し金一、〇六二、二八四円およびうち金九六二、二八四円に対する昭和四八年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金四、五三六、六六一円およびうち金四、二三六、六六一円に対する昭和四八年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故

原告は、つぎの交通事故により傷害を被つた。

1  日時 昭和四六年五月三日午前八時三〇分ころ

2  場所 宮崎市大字本郷南方三、九七五番地先路上

3  加害車 普通貨物自動車(宮崎四ひ七五二二号)

運転者 被告

4  被害者 原告

5  態様 南から北に向つて進行して来た加害車が前記場所道路を西から東に向つて横断しようとしていた原告に衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

2  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告は、本件事故当時前方の注視不十分のままかなりの速度で加害車を運転進行していた過失により本件事故を発生させたものである。

三  損害

1  傷害、治療経過等

(一) 傷害

頭蓋骨々折(Ⅲ型)、右肩、右下腿打撲傷、頭部外傷Ⅳ型、左頭部外傷白内障害等

(二) 治療経過

昭和四六年五月三日から同月二九日まで二七日間大迫外科病院に入院

同年六月四日から同年九月一日まで一三回新千里病院に通院

同年九月一七日から昭和四七年一〇月九日まで一〇四回大阪大学医学部附属病院に通院

同年九月二二日から昭和四八年三月三〇日まで三三回高石クリニツクに通院

昭和四六年七月七日から同月二一日まで二回近江眼科に通院

同年一二月一八日山梨病院に通院

その他、関西労災病院、市立豊中病院、藤見放射線科、高宮病院にも通院

(三) 後遺症

精神、神経、知覚、記憶障害、頭痛、視野狭穿、めまい、右内耳障害等

2  損害額

(一) 治療費 金四二四、四二〇円

前記各病院における入通院治療費として、右金額を要した。もつとも、右金額のうち金一五四、七一一円は、原告において社会保険から給付を受けた金員で支払つたもので、社会保険において被告に対し求償すべきものであつたところ、原告において被告に代わり社会保険に返還したので、事務管理による求償として被告に対しその支払を求める。

(二) 入院雑費 金一三、五〇〇円

前記二七日間の入院に伴う雑費として、右金額を要した。

(三) 入院付添費等 金八〇、四〇〇円

前記宮崎市の大迫外科病院入院中の二七日間家族の者らが付添看護にあたり、一日金一、五〇〇円の割合による金四〇、五〇〇円の付添看護費用相当損害を被つたほか、右家族の者らが看病のため大阪市から宮崎までかけつけた際の航空運賃等金三九、九〇〇円を支払い、これと同額の損害をも被つた。

(四) 通院期間中の在宅付添費 金一〇〇、〇〇〇円

前記通院期間の一〇〇日間家族の者が付添看護にあたり、一日金一、〇〇〇円の割合による右金額の在宅付添費用相当損害を被つた。

(五) 通院交通費 金二九、六一〇円

前記通院に伴う交通費として右金額を要した。

(六) 温泉治療費、薬代 金四六、〇九二円

前記受傷に伴い、温泉に赴き療養し、金三七、二九二円を支払つたほか、薬を購入使用し、金八、八〇〇円を支払つた。

(七) 休業損害 金七〇〇、〇〇〇円

原告は、事故当時姉と共同して麻雀店を経営し、一か月金二〇〇、〇〇〇円の利益を挙げていたが、前記受傷により、昭和四六年五月上旬から昭和四七年三月上旬まで一〇か月間休業を余儀なくされたところ、原告の右営業に対する寄与率は、三五パーセントであるから、原告は、右休業により一か月金七〇、〇〇〇円の割合による金七〇〇、〇〇〇円の損害を被つたものということができる。

(八) 後遺障害による逸失利益 金一、八一三、〇〇〇円

原告は、前記後遺障害のため、昭和四七年三月上旬以降一三か月間はその労働能力を七〇パーセント、また、その後の六〇か月間は、その労働能力を三五パーセントそれぞれ喪失するに至つたものであるから、この逸失利益を算定すると、金一、八一三、〇〇〇円となる。

(九) 慰藉料 金一、五〇〇、〇〇〇円

本件事故の態様、原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情によれば、原告の慰藉料額は、右金額とするのが相当である。

(一〇) 弁護士費用 金三〇〇、〇〇〇円

原告は、本訴の提起、追行を弁護士に委任し、その費用、報酬として右金額を支払う旨約諾している。

四  損害の填補

原告は、自賠保険から金六九〇、〇〇〇円の支払を受けた。

五  結論

よつて、原告は、被告に対し本件事故に基づく損害の賠償として、未だ支払のない金員のうち金四、五三六、六六一円およびうち弁護士費用を除く金四、二三六、六六一円に対する本件訴状送達の翌日である昭和四八年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三答弁および主張

一  答弁

請求原因一項の事実は認める。

同二項中、1の事実は認めるが、2の事実は否認する。

請求原因三項の事実は知らない。

同四項の事実は認める。

同五項は争う。

二  過失相殺

原告は、本件事故当時道路の横断を急ぐのあまり、加害車が真近に接近していたにもかかわらず、左右の安全を確認しないまま加害車の直前に飛び出し横断をはじめて本件事故に会うに至つたものであり、本件事故につき過失のそしりを免れ難いから、被告の賠償すべき損害額の算定に際しては、この点が斟酌され、相当の減額がなされなければならない。

理由

一  事故

請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

請求原因二項1の事実は当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  傷害、治療経過等

〔証拠略〕を綜合すれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

原告は、本件事故により頭蓋骨々折(Ⅲ型)、右肩、右下腿打撲傷の傷害を被り、意識障害はないが、頭痛、嘔吐、悪感、戦慄を催し、左外耳、左外鼻孔および咽頭から出血する状態で、事故当日の昭和四六年五月三日事故現場近くの宮崎市内大迫外科病院に入院して治療を受けたところ、嘔吐は一両日で治まり、頭痛も次第に軽快に向つて行つたが、視力低下、視野狭穿等があらわれ、かつ、左側臥位でめまいが著しいので、同月二九日まで二七日間同病院に入院して治療を受けるとともに、その間の同月二四日同病院の紹介により高宮病院において検査を受けた。そして、原告は、前記大迫外科病院を退院すると、当時の住所地であつた大阪市に帰り、同月三一日関西労災病院に通院して治療を受けたが、前記眼の障害に加えてめまいや左耳の圧迫感があるので、同年六月四日から同年九月一日までの間一三回にわたり新千里病院に通院して治療を受けたほか、その間の同年七月二日から同年九月六日までの間市立豊中病院に、また、同年七月七日から同月二一日までの間二回にわたり近江眼科にそれぞれ通院して治療を受けたところ、症状は軽快しつつあるとの診断であつたが、頭重感、めまいは治らず、左聴力も低下しているように感じられたので、同年九月一七日から昭和四八年二月一四日までの間大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科に八二回、同病院脳神経外科に二三回それぞれ通院して治療を受けるとともに、その間の昭和四六年一二月一八日山梨病院に、また、昭和四七年九月二二日から昭和四八年三月三〇日までの間三三回にわたり高石クリニツクにそれぞれ通院して治療を受け、なお、その後も同クリニツクに通院して治療を受けた。

ところで、原告は、前記のような治療にもかかわらず、なお左耳の難聴、頸部運動時のめまい、身体のしびれ感、易疲労性等の多彩な症状を訴えているところ、医師は、その訴えのような軽度の内耳性障害が認められないではないが、代償性に治癒傾向にあり、また、脳波は正常範囲にあり、神経学的には特に異常が認められないと診断している。

以上の事実が認められる。

2  損害額

(一)  治療費等 金三九五、一四六円

〔証拠略〕を参酌すれば、原告は、前認定各病院における入通院治療費として、大迫外科病院に対し金九五、七一八円、高宮病院に対し金一、五三六円、関西労災病院に対し金五七五円、新千里病院に対し金一〇、一〇四円、市立豊中病院に対し金一、五一九円、近江眼科に対し金一八、一〇〇円、大阪大学医学部附属病院耳鼻咽喉科に対し金六二、七三一円、山梨病院に対し金一一、五五〇円、高石クリニツクに対し金三八、六〇二円、以上合計金二四〇、四三五円をそれぞれ自ら支払つたほか、大迫外科病院、大阪大学医学部附属病院等における治療費のうち金一五四、七一一円を大阪市管掌国民健康保険から支払つてもらつたところ、右治療費のうち、右国民健康保険から支払われたものは、本来大阪市において加害者である被告に対し求償すべきものであつたが、被告が遠隔の日南市に居住していて、その手続が面倒であるため、原告に対し立替支払を要求し、ここに原告において被告に代わりこれを同市に返納したことが認められる。

そうすると、被告は、原告に対し原告が自ら支払つた右認定治療費を賠償するほか、原告が立替返納した右認定金員についても、大阪市の求償に応じなければならない限度においてはこれを原告に支払わなければならないものである。

なお、〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四七年一一月一三日藤見放射線科胃腸科に通院して胃のレントゲン検査を受け、その費用として金二、三二〇円を支払つたことが認められるが、前認定原告の本件事故による受傷の部位からみて、右検査は、本件事故による受傷についてのそれであるとは認め難く、ひいては、右治療費の支出をもつて本件事故に基づく損害とは認め難い。

(二)  入院雑費 金一三、五〇〇円

経験則によれば、原告の前認定二七日間の入院に伴う雑費として、一日金五〇〇円の割合による右金額を要したことが認められる。

(三)  入院付添費等 金五六、一〇〇円

〔証拠略〕を綜合すれば、原告は、前認定大迫外科病院に入院中の二七日間付添看護を要したため、事故当時原告に同行していた姉富永光子ならびに事故後大阪市からかけつけた姉中島文子および娘萱野薫らが順次交替で付添看護にあたつたことが認められるところ、経験則によれば、右付添看護により一日金一、五〇〇円の割合による金四〇、五〇〇円の付添看護費用相当損害を被つたことが認められる。

また、〔証拠略〕によれば、前認定のように原告看病のため大阪市から宮崎市に赴いた中島文子および萱野薫は、その往復とも飛行機を使用し、その費用として一人片道につき金七、八〇〇円を要したことが認められるところ、原告の前認定受傷の程度および付添看護にあたつた者との身分関係よりすれば、原告の娘である萱野薫が原告の看病のために赴いた際支出した往復の航空運賃金一五、六〇〇円は、本件事故と相当因果関係の範囲内にある支出と認めることができるが、その余の右認定航空運賃の支出は、本件事故と相当因果関係の範囲内にある支出とは認め難い。

(四)  通院期間中の在宅付添費

〔証拠略〕によれば、原告は、前認定のように病院を退院し、通院をはじめてからも昭和四六年八月末ころまでの間娘の看護を受けたことが認められるが、原告の前認定当時における病状の推移からみて、その看病に殊更の労力を要したものとは到底認め難いから、原告の通院期間中の在宅付添費用相当損害の請求も認め難い。

(五)  通院交通費

〔証拠略〕の記載中には、原告の前認定各病院への通院交通費として金二九、六一〇円を要した旨の部分があるが、右部分は、その根拠となる資料がなく、そのまま直ちに信を措き難く、他に、原告主張の通院交通費についてこれを認めるに足りる証拠はない。

(六)  温泉治療費、薬代

〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四七年六月一五日から同月一七日まで和歌山県西牟婁郡白浜町椿温泉所在の温泉旅館に赴き療養し、その費用として金三七、二九二円を要したほか、前記治療期間中薬を購入使用したことが認められるが、右認定のような医師の指導、監視下にない単なる湯治のごときは、〔証拠略〕により認めることができるように、たとえ効果のあがることが期待できるものであるとしても、それは極めて間接的な効果しかないものであることが経験則上明らかであり、現に原告の場合においても右温泉療養により格別の効果があらわれたことを肯定できる証拠はないのであるから、これをもつて本件事故に基づく前認定受傷治療のため相当なものであつたとは認め難いし、また、前認定のような原告の受けた治療の程度よりすれば、原告において右認定のように医師の指導もないのに薬品を購入使用したからとて、これまた前認定受傷治療のため相当なものであつたとは認め難い。したがつて、原告の温泉治療費、薬代の請求は容認し難い。しかしながら、この点は慰藉料額の算定に際し斟酌する。

(七)  休業損害 金四六二、九一〇円

〔証拠略〕を綜合すれば、原告は、大正一三年二月八日生で、事故当時四七才であり、かねて昭和三九年ころから姉富永光子と共同して麻雀店を経営し、本件事故当時は毎月金二〇〇、〇〇〇円くらいの利益を挙げ、経済的に不自由のない生活を送つていたことが認められるところ、前認定受傷のため、事故後右営業に従事せず、姉光子一人が営業に従事していたが、そのうち右営業は廃止となり、原告は、昭和四八年七月中旬ころから留守番として稼働をはじめ、昭和四九年一月以降は娘婿の経営する会社の女子寮々母として稼働し、今日に至つていることが認められる。

ところで、さきに認定した原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、病状の推移、その年令および従事していた職務の種類、内容等によれば、原告の右認定休業のうち本件事故と相当因果関係の範囲内にあるそれは、原告主張の昭和四六年五月上旬から昭和四七年三月上旬までの一〇か月間であると認めて差支えない。

さて、原告において姉光子と共同して麻雀店を経営し、一か月金二〇〇、〇〇〇円程度の利益を挙げていたことは、右認定のとおりであるが、原告の労働自体によりどの程度の利益がもたらされていたかを直接知ることのできる資料はない。

しかしながら、さきに認定した事情によれば、原告の前認定稼働により同年令の一般女子労働者が得ている平均賃金程度の利益が挙つていたものと推認して差支えないところ、原告と同年令四七才の一般女子労働者の得ている平均賃金は、昭和四六年度賃金センサス(第一巻第一表)によれば、一か月金四六、二九一円(円位未満切捨、以下同じ。)と認められるから、これによれば、原告の本件事故による休業損害は、金四六二、九一〇円となる。

(八)  後遺障害による逸失利益 金四三二、七五一円

さきに認定した原告の従事していた職務の種類、内容およびその後遺障害の部位、程度等によれば、原告は、前認定後遺障害のため、その労働能力を、昭和四七年三月上旬以降昭和四八年三月上旬までの間三五パーセント、その後の昭和五一年三月上旬までの間一五パーセント喪失し、右労働能力喪失率に応じた損害を招くものと認められるから、原告のこの逸失利益を計算の便宜上原告において本訴請求金員につき遅延損害金の支払を求める起算日とする本件訴状送達の翌日であること当裁判所に顕著な昭和四八年一〇月上旬ころ以降分については月別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、別紙計算書記載のとおり金四三二、七五一円となる。

(九)  慰藉料 金一、〇〇〇、〇〇〇円

さきに認定した原告の被つた傷害の部位、程度、治療の経過、期間、後遺障害の内容、程度、そめ他諸般の事情によれば、原告の慰藉料額は、右金額と認めるのが相当である。

四  過失相殺

〔証拠略〕を綜合すれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

本件事故発生地点は、南北に直線状に通ずる幅員八・五メートルのコンクリート舗装の道路上であつて、右道路は、その両側端の幅員各〇・七メートル部分が側線で劃された歩行者通行帯となり、なお、付近において車両の速度は毎時四〇キロメートルに制限されていた。

原告は、本件事故当時姉富永光子らとともに九州を観光旅行中であり、必要があつて本件事故発生地点の道路東側沿にある人家の前にタクシーを止めて降り、道路を横断して反対の道路西側沿にあつた薬店に赴き、買物をしたが、その際釣銭にもらつた百円紙幣が珍しく、これを同店軒下に立つて眺めたうえ、財布にしまい、止めてあるタクシーの方に戻ろうとして、付近道路における車両の交通につき全然注意を払わず、漫然と道路を横断しようとして道路内側に向つて二、三歩踏み込み、前記歩行者通行帯部分をこえて車両通行帯部分に若干進入したところ、右(南)方から加害車が進行して来ていて、これに衝突された。

他方、被告は、右道路の北行車線上を南から北に向つて加害車を運転進行しながら本件事故発生地点に接近して来たところ、前方約九・三メートルの前記薬店軒下にいた原告が道路を横断しようとして自車の進路前面に向つて進出して来るのを発見し、危険を感じて直ちに急制動措置を講ずるとともに、ハンドルを右に切つてこれを避けようとしたが、間に合わず、約一〇・三メートル直進した地点で加害車左前部付近をもつて原告に衝突のうえ、これを左斜め前方約四メートルの路端付近まで跳ね飛ばすとともに、加害車をさらに約五メートル前進させた地点に至つて停車させた。

なお、加害車の右急制動措置により、路面には、左車輪によるスリツプ痕五・四五メートル、右車輪によるスリツプ痕八・七メートルが残されていた。

以上の事実が認められるのであつて、被告本人尋問の結果中、本件事故当時における加害車の速度が毎時約三五キロメートルであつたとの点は、右認定制動距離およびスリツプ痕の長さからみて、そのまま直ちに信を措き難い。

さて、右認定の事実によれば、本件事故は、加害車を運転していた被告において前方の注視を怠つていたため、前方道路左側沿にある薬店から出て来て道路を横断しようとした原告の発見が遅れ、惹起するに至つたものということができ、これによれば、被告の過失は軽視できないが、他方、原告も道路を横断するに際し、当時加害車が至近距離に接近して来ていたにもかかわらず、付近における車両の交通につき全然注意を払つていなかつたため、これに気付かず、漫然その直前を横断する結果となつて本件事故に会うに至つたものであり、原告にも過失が認められるところ、右認定被告の過失の程度等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三〇パーセントを減ずるのが相当であると認められる。

そうすると、被告において原告に対し支払わなければならない損害額は、前項損害の七〇パーセントであり、また、原告が大阪市から健康保険金の給付を受けたことにより被告において同市に返還しなければならない金額は、前項(一)認定の金一五四、七一一円の七〇パーセントに相当する金額であるから、前認定のようにその代替支払をした原告に対し被告において支払わなければならない額も右同額であり、結局、被告において支払わなければならない金額は、前項総額の七〇パーセントに相当する金一、六五二、二八四円ということができる。

五  損害の填補

請求原因四項の事実は当事者間に争いがない。

よつて、原告の前記金額から右填補分を差引くと、残額は、金九六二、二八四円となる。

六  弁護士費用

原告は、被告に対し本件事故に基づく損害の賠償等として前記金九六二、二八四円の請求権を有するところ、被告において任意にその支払をしないため、本訴の提起、追行を弁護士に委任し、その費用、報酬として金三〇〇、〇〇〇円を支払う旨約諾していることは、本件口頭弁論の全趣旨から明らかであり、本件事案の内容、審理経過、本訴請求額および認容額等に照らすと、原告が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用の額は、金一〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、被告は、原告に対し金一、〇六二、二八四円およびうち弁護士費用を除く金九六二、二八四円に対する本件訴状送達の翌日である前記昭和四八年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小酒禮)

計算書

1) 47.3.上旬から48.3.上旬まで(12か月)

46,291円×0.35×12月=194,422円

2) 48.3.上旬から48.10.上旬まで(7か月)

46,291円×0.15×7月=48,605円

3) 48.10.上旬から51.3.上旬まで(29か月)

46,291円×0.15×27.3235=189,724円

1)+2)+3)=432,751円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例